庵野秀明監督のモノ作りについて考える

Webディレクターのもっちです(=゚ω゚)ノ

現在一部地域では緊急事態宣言が発令されており、映画業界では逆風の最中ですが、庵野秀明総監督による「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」が二度の公開延期を経て公開となっております。
私も緊急事態宣言発令前にキャスト・監督陣の舞台挨拶込みも含めて三回劇場で観させていただきましたが、皆さんはご覧になりましたでしょうか?

この記事を書いている2021年5月6日時点で興行収入82.8億円、観客動員542万3475人と『シン・ゴジラ』(82.5億円)を超え、庵野秀明監督最大のヒット作品となりました。
TVシリーズ放送から26年、世界中を巻き込み伝説となった神話の完結ということで、一ファンとして本当に今作を心待ちにしておりました。

また、今回初めて制作現場にNHKのテレビカメラが密着し、プロフェッショナルとして放送したこともネットでは話題となりました。
プロフェッショナルで語られた庵野秀明監督のモノ作りの考え方を、業種は異なりますが同じ制作の仕事をする人間として考えていきたいと思います。

庵野秀明監督とは

1960年5月22日生まれ、山口県宇部市出身の日本のアニメーター、映画監督、実業家です。
幼少期からアニメや特撮作品が好きで、観るだけでは飽き足らず自分で良く絵を描いていたそうです。
人物を描くことは苦手だったそうですが、自主制作アニメで魅せた爆発シーンは、あの漫画界の天才手塚治虫さんも一目置くほどのクオリティだったようです。
その力は劇場アニメ『風の谷のナウシカ』、『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』で遺憾なく発揮され、とくにナウシカでは巨神兵による爆破シーンを宮崎駿監督に任されたそうです。
その後は『トップをねらえ!』、『ふしぎの海のナディア』を制作し、35歳の時に『新世紀エヴァンゲリオン』が放送開始となりました。

師匠と慕う宮崎駿監督には「宇宙人」、ジブリのプロデューサーである鈴木敏夫さんには「テロリストのような、特異の存在」と評価されていました。

新世紀エヴァンゲリオンとは

26年前にGAINAXにより制作された日本のオリジナルテレビアニメ作品であり、その斬新なストーリー展開や緻密な世界観設定、魅力的なキャラクターにより社会現象を巻き起こした伝説の作品です。
大災害「セカンドインパクト」が起きた世界を舞台に、巨大な汎用人型決戦兵器「エヴァンゲリオン」のパイロットとなった14歳の少年少女たちと、第3新東京市に襲来する謎の敵「使徒」との戦いを描いています。

本作は第3次アニメ革命を起こしたとされ、日本アニメ史上で5本の指に入るほど重要な作品に位置付けられています。
海外でも日本を代表するアニメ作品として知られており、現在の深夜アニメの礎となったことでも有名です。
現在ではTVシリーズ版はNetflixで、新劇場版はAmazon Primeで視聴することが可能となっており、最新作にして全シリーズの完結作「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」が全国の劇場で絶賛公開中となっております。
 

プロフェッショナルでの特集

「プロフェッショナル 仕事の流儀」は、超一流のプロフェッショナルに密着し、その仕事を徹底的に掘り下げるドキュメンタリー番組です。
今回エヴァンゲリオンが完結するということで、庵野秀明監督に約4年にわたり独占密着されていました。
しかし、冒頭の「この男に安易に手を出すべきではなかったと」というナレーションは面白かったですね。

制作過程の変革

プロフェッショナルで庵野監督は番組序盤でこう仰っていました。
「設計図は最小限のものにしたい」
「設計図の作り方を頭の中で作りたくない」

これは一体どういうことなのか?
アニメの制作現場だと通常は脚本から画コンテとよばれる設計図を作成し、それに沿ってキャラクターや背景を作り上げていきます。
これは私たちWebの業界だとお客様の要望をまとめたヒアリングシートから、ワイヤーフレームというWebページのもととなる設計図を作成するのと同じことです。

しかし、今回庵野監督は新作をこの画コンテ(設計図)なしで作成するというのです。
もう制作の人間からすると怖くてしょうがないですね(笑)
しかし、庵野監督は「みんな最初に決めたがる、安心したいから。でも現場には画コンテがない方がいい」と言い切ったのです。

新しい設計図の作り方

それでは画コンテ(設計図)なしでどう作っていくというのでしょうか?

庵野監督は今回、新たな設計図としてプリヴィズを作成していきました。
プリヴィズとはモーションキャプチャーなどを使用し、映画制作の初期段階(プリプロダクション)において、各シーンを検討のために簡単に映像化したものです。
役者さんがいくつものセンサーを付けた全身タイツを身に纏って、その動きに併せて3Dのキャラクターが動く、という映像を見たことはないでしょうか?

本来はアニメの絵コンテのようにやりたいシーンをCGで作っておき、撮影するシーンに対してスタッフ全体が共通の認識、映像の完成形をイメージして撮影に臨むために作成するものです。
ところが「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」の場合は、“やりたいシーン”としてプリヴィズを作成しています。
そこからCGならではの手法を活かしてアングルを何度も検証、さらにイメージに近いCG映像を作成した後、キャラクターの動きを取り入れた手描き作画に差し替えるという、本作ならではのアングル、動き、作画を突き詰めた映像になっています。

特別に公式で公開されている映像があるので、下記をご覧ください。
https://twitter.com/khara_inc/status/1377620463246049290?s=20
CGによるプリヴィズからアングルを考え、そこからCGモデル制作、そしてキャラクター作画に差し替えるという本作ならではの凝った作画作業が確認できます。

これをWeb制作に置き換えるとワイヤーは作らず、様々な挙動や表示などのモジュールを用意し、それをAdobeのXDなどで組み合わせていきプロトタイプを作成する、という事になるでしょうか。
たしかに、これができれば挙動などはプロトタイプを確認すれば文字を読むよりも見やすく、実装漏れも回避することができそうです。
注意書きも最低限で済むことから、デザイナーやエンジニアが見たときに見えやすいものが作れるなと感じました。
ただ、膨大な数のアニメーションや表示方法がある中から、テーマに沿って最適解を組み合わせていく作業はとても根気が要りそうですね…

作品至上主義

庵野監督が貫く流儀は作品至上主義。
監督が中心にいるわけではなく、あくまで中心にいるのは作品であるという考えです。
それは自分の命と作品を天秤にかけた場合、作品の方が上であると言い切っています。

これは私が敬愛するBUMP OF CHICKENも同じことを仰っていて、彼らは生まれてくる音楽のプライオリティが一番高いのだと。
そして、生まれてきた音楽を中心にして車座になり、一番この音楽がみんなの耳に届くにはどういう音でどういうアレンジにすればいいのかを探り続けるのだと。

やはり一流のクリエイターはこの境地にいきつくのだなぁと改めて考えさせられました。
私もディレクターですがクリエイターの端くれです、制作するWebページを中心にしてそのページが一番輝くなるようにデザイナーやエンジニアと手と取って制作していきたいと思います。

庵野監督の原点

庵野監督のお父様は事故で片足を失ってしまっていました。
幼少期に描いていた絵も、例えばロボットとかを描いても必ず腕とか足が無かったそうです。
それはどこか欠けているところが良いと感じる感覚は、欠けているものが日常としてあって、ご自身のお父様を肯定したかった気持ちもあったのではないでしょうか。

エヴァの登場キャラクターもアニメーションであるならば完璧であって良いはずですが、主要キャラクターはすべて何かが欠けていました。
庵野監督自身も「本来完璧であるはずなのに、どこかが壊れているとかは面白いと思う」とインタビューの中で仰られていました。

「きれいに作ってもそんなに面白いものにならない。きれいなだけだから」

この言葉は一つの心理だなと感じました。
全部盛り盛りで完璧と思って作ったページよりも、少し歪でもそぎ落としたり、また肉付けしたり試行錯誤の末に作り上げたものの方が私も好きだなと感じます。

まとめ

さて、いかがだったでしょうか?
長くなってしまい申し訳ございませんが、これでも文章量はかなり減らしたのです。

業種は異なりますが、同じ制作を生業とする庵野監督の仕事の仕方から、新しいWeb制作の形について改めて考えてみました。
具体性には欠けますが、プロトタイプ作成の知識・技術を上げてクライアントへのプレゼン資料や、デザイナーやエンジニアへの指示書など分かりやすい設計図の作成のヒントとなったと感じています。

これが効率化できればディレクターの負担軽減にも繋がりますし、今後のことも考えて引き続き検討していきたいテーマであると感じています。

最後に、現在緊急事態宣言が出ている地域では映画館も閉鎖され、「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」を観ることが難しくなっています。
しかし、庵野監督が心も身体も燃やし、血を流しながら作った作品です。
感染症対策は万全にして、一人でも多くの方に観ていただきたい気持ちでいっぱいです。

さようなら、すべてのエヴァンゲリオン。
 

Writer

もっち

会社でアニ研(アニメ研究会)を設立したりするヲタク系Webディレクターです。
大切なことは音楽とアニメと漫画から教わりました。

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